サンプルを使っていない曲が、DistroKidで止められた

サンプルを一つも使わずコードで作った僕の曲でも、DistroKidは「他人の曲が入っている」としてアルバムごと止めたので、配信するなら曲と一緒に作った記録を残しておいてください。
10月の半ば、僕は自分で作った曲をまとめてDistroKidから配信に出しました。DistroKidは、SpotifyやApple Musicなどに曲を届けてくれる配信代行のサービスです。
出す前に、僕は作業を手伝っているAIにこう伝えています。「DistroKidでの配信も含めて、すべて配信していいからね。配信する日付に関しても、すぐ秒殺で配信してOK」。
正直、なめていました。4月に本を出したときは、審査に時間がかかって、設定する項目も多くて、思ったより面倒だったんですよね。そのときの記録に、僕は「音楽配信ならディストリビューター経由で比較的流せる感覚がある」と書いています。本は重いけど、音楽なら流せる。そう思っていました。
その日の夜11時すぎ、「【要対応】」で始まるメールが届きました。
届いたのは「他人の曲を使っている」という拒否
メールの中身を短くすると、こうです。このリリースは、許可を得ていない他のアーティストの楽曲のサンプル、またはリミックスを含むと判断したので、拒否します。
名指しされたのは2曲でした。1曲は、古いゲームの曲を8bit風にした誰かの録音に似ている。もう1曲は、別の誰かの曲に似ている。止まったのはその2曲だけではなく、アルバム全体です。管理画面には「配信先で問題が検出されました」と出ていて、押せるボタンは「配信を取りやめる」の一つだけでした。
でも、僕の曲には他人の音が入りようがないんです。
このアルバムは、最初から決まりを作って進めていました。人の声の録音も、外部のサンプルも使わない。既存の曲や特定のアーティストのまねもしない。音はすべてコードで計算する。ループ素材すら入っていません。同じコードを動かせば、同じ音が一から出てくる状態です。
それでも「他人の曲が入っている」と言われたわけです。
照合された相手と、実際に比べてみた
そこで、似ていると言われた相手の音を取ってきて、こちらの曲と比べてもらいました。
ゲーム曲の方は、公開されている30秒の試聴を使いました。Shazamのような「音の指紋」で、同じ形がどれだけ重なるかを数えるやり方です。同じ録音どうしなら、指紋は698個そろいます。僕の曲とは最大で21個。しかも、そろった位置がバラバラでした。同じ音を使っていれば、位置はまとまってそろうはずです。メロディーも比べましたが、続けて一致したのは最長で3音でした。
重なっていたのは、曲の最後のサビで調を一段上げたところの倍音くらいです。
もう1曲の相手は、そもそも見つかりませんでした。Spotifyでそのアーティストの全リリースを見ても、Apple Musicを7か国分探しても、Deezer、YouTubeを探しても出てこない。照合の相手が、公開されている範囲のどこにもいないんです。
DistroKidがどういう仕組みで照合しているのかは公開されていないので、何が引っかかったのかは僕にも分かりません。ただ、名指しされた2曲の目立つフレーズは、見てもらうとどちらも短くてよくある形でした。和音を順番に鳴らすだけの短いフレーズと、短調の短いリフです。
僕は前から、「元素自体がオリジナルなのではなく、その組み合わせがオリジナル」だと思っています。短い音の並びは元素のほうで、誰が書いても、どこかの曲と似ることはあります。照合がそこを拾ったのかどうかまでは、外からは確かめられません。
返ってきたのは、17分後の定型文
最初に送った異議には、比べた結果の数字を付けました。夜中の0時20分です。
返事は17分で来ました。早い、と思ったら定型文でした。ビートを買った契約書と販売ページを出してください。なければ、その曲を外して出し直してください。
定型文が求めているのは、どこかで買ったビートの証拠です。でも、自分で一から作った曲に契約書はありません。出せと言われても、存在しないんです。
なので2通目は、言うことを絞りました。AIに下書きを頼むときの僕の指示は、こうです。
「買ったビートもサンプルも存在しないので契約書は出せないこと、コードと書き出しの記録を出せること、担当者による手動の再審査をお願いしたいことを、短く書いて見せて。確認してから送る」
書いたのは、この3つだけです。契約書はないこと、代わりに出せる記録があること、人に見直してほしいこと。これは僕の曲だと強く言い張る文は入れていません。
3日たっても、返事は来ていない
2通目を送ってから、返事はまだありません。届いたのはハロウィーンの宣伝メールだけでした。
さすがに僕も聞きました。「DistroKidの連絡遅くない?これってなんでこんなに遅いの?標準なの?」
調べてもらうと、DistroKidは返信までの目安を公表していません。2通目を送ったのはアメリカの金曜の昼で、その後に土日が入っているので、向こうの営業日で数えるとまだ1日分くらいしか進んでいない。1通目への返事が17分だったのは定型文だったからで、人が見直す再審査は時間がかかりやすい、ということでした。
AIからは、アメリカの営業日で2〜3日たつ10月21日か22日ごろまで待って、それでも来なければ同じ問い合わせに短い催促を送る、という提案をもらっています。通らなかったら、名指しされた2曲を外して出すか、直して出し直すかを僕が決めることになります。
結果はまだ出ていません。ここに書いているのは、止まってから今日までのことです。
「すぐ秒殺で配信」のつもりが、配信の手前で4日止まっています。
入口で止まった曲には、1円も入らない
配信できるかどうかは、お金の面でもかなり大きいです。
最近、ミームとしてめちゃくちゃ使われて、半分笑われながら広がっている曲がありますよね。あれを見ていて僕が思ったのは、笑われていても、配信していれば使われるたびに音源の収入が入る、ということでした。音源収入って、結構バカにならないんですよね。SNSで使われたときの収益化まで配信の側で有効にしていれば、ネタにされた分まで、かなり入っているんじゃないかと思っています。
逆に言うと、配信の入口で止まった曲は、どれだけ使われても1円も入りません。
それに、止まったことに気づけない場合もあります。AIで作った曲を配信している人の記事では、60曲以上アップしたのに、届いていたのは最初の5曲だけで、2か月気づけなかったと書かれていました。その人のケースは「編集上の判断」による拒否で、僕のような音の照合とは理由が違います。それでも、配信はボタンを押したら終わり、ではないという点は同じです。
配信する前に、手元に残しておくもの
僕の場合を振り返って、出す前にやっておけばよかったと思うことを並べます。
まず、作り方の記録です。止まったときに求められたのは「買った証拠」でした。買ったビートを使っているなら、契約書と販売ページを取っておく。自分で作ったなら、契約書の代わりに出せるのは制作の記録です。DAWのプロジェクトファイル、書き出した日時、使った音源の一覧。僕はコードと書き出しの記録があったので、少なくとも「出せる」とは言えました。何も残っていなければ、定型文どおり曲を外して出し直すしかなかったはずです。
次に、まとめて出すほど止まる範囲も広がることです。僕は2曲を名指しされただけで、残りの曲も全部止まりました。アルバムで出すか、先に何曲か出すかは人それぞれですが、数曲の疑いで全部が止まることは、知っておいて損はないです。
それから、返信は事実だけで書くこと。言いたいことは山ほど出てきますが、作り方の事実と、出せる記録と、見直してほしいというお願い。この3つだけにした方が、読む側が確かめやすいはずです。
最後に、日程に余裕を持つこと。僕はアルバムの曲を使った投稿を、配信されてから出す予定にしていました。それも今は全部止まっています。配信日に合わせて宣伝まで組んでいたら、この4日は普通にまずかったと思います。
押せるボタンが「取りやめる」しかない
今回いちばん残っているのは、あのボタンです。
問題が見つかったとき、画面で選べたのは「配信を取りやめる」だけでした。どこが似ているのか、何を出せば見直してもらえるのかは、画面のどこにもありません。メールで聞いて、初めて定型文が返ってくる。
僕は前から、プラットフォームはいきなり締め出すのではなく、謹慎期間のような段階を作ればいいと思っています。発信者ファーストでいてほしいし、「変な色を出すなよ」とも思っています。今回の画面は、まさにその段階がない作りでした。
とはいえ、仕組みが変わるまで待っていても曲は届きません。照合が外れたとき、こちらから出せるのは手元に残した作り方の記録くらいです。僕は今、その記録を出せると書いた2通目の返事を待っています。
制作プロセス
このコンテンツは、僕自身の一次情報をもとに制作しています。
出典1:本は原作として割り切るしかない
出典2:AIが作ったか、人間が作ったかは関係ない
出典3:失敗作の価値が高まっている。ミームと音楽の収益化のこと
AI活用
制作には、以下のAIモデルを使用しています。
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